ボツリヌス療法とは
ボツリヌス療法とは、ボツリヌス菌(食中毒の原因菌)が作り出す天然のたんぱく質(ボツリヌストキシン)を有効成分とする薬を筋肉内に注射する治療法です。
ボツリヌストキシンには、筋肉を緊張させている神経の働きを抑える作用があります。そのためボツリヌストキシンを注射すると、筋肉の緊張をやわらげることができるのです。
ボツリヌス菌そのものを注射するわけではないので、ボツリヌス菌に感染する危険性はありません。
この治療法は世界80ヵ国以上で認められ、広く使用されています(2010年10月現在)。日本では、手足(上肢・下肢)の痙縮、眼瞼(がんけん)けいれん(瞼が下がってきてしまう病気)、片側顔面(へんそくがんめん)けいれん(顔の筋肉が収縮する病気)、痙性斜頸(けいせいしゃけい)(首が斜めに曲がってしまう病気)、小児脳性まひ患者の下肢痙縮(けいしゅく)に伴う尖足(せんそく)(つま先が伸び、かかとが床につかない状態)に対して認可され、これまでに9万人以上の人がこの治療法を受けています。(グラクソ・スミスクライン株式会社ホームページより)
院長はボトックス®(ボツリヌストキシン)療法の多数の患者さんの治療経験があります。適応疾患は
- 片側顔面けいれん、眼瞼けいれん
- 痙性斜頚
- 脳卒中後遺症の痙縮
- 腋窩多汗症
です。治療を行うと効果は3日後くらいから徐々に現れ、3〜6ヶ月持続します。症状が再発してきたらまた治療を繰り返します。1回の治療は15〜20分で終わります。薬剤の注文のお時間をいただく関係上、予約制としています。初診時に診断、治療計画をたてて、治療日時を予約します。
脳卒中後遺症の痙縮に対するボツリヌス療法
脳卒中で半身麻痺になったとき、後遺症として痙縮という症状がみられることがあります。これは、拮抗筋(関節の屈筋と伸筋)がスムーズに働かなくなったため、過度の筋肉の緊張が生じ、手首は掌屈、手指や肘は曲がった状態で、足関節は伸びた状態(尖足)で硬くなってしまいます(下図参照)。筋肉がつっぱり、ピクピクと勝手に動いて止まるまで時間がかかることもあります。日常生活では、衣服の着脱の妨げになり、歩行、車いすへの移乗にも障害となり、患者さんだけでなく介助者にとっても負担が大きくなります。この状態を放置すると、関節が固まり、拘縮という状態になってしまいます。そのためリハビリテーションでは筋肉、関節が固まらないようにマッサージして関節可動域の維持を目指します。しかし、関節の動きが固くなると、痛みが生じるため、リハビリが十分できなくなることもあります。
痙縮の治療としては
- 筋弛緩剤の内服
- リハビリテーション
- ボツリヌス療法
があげられます。ほかに特殊な治療としてバクロフェン髄注療法があります。
ここでは、ボツリヌス療法について説明します。
ボツリヌス療法の目的は、痙縮の原因となっている筋肉の緊張をとり、関節の動きを柔らかくすることです。
ボトックス®とはボツリヌス療法に使われる注射剤です。複数の痙縮している筋肉に直接ボトックス®を注射します。効果は3〜4ヶ月続きますが、大切なことはボトックス®の効果が出ている間に充分リハビリを行うことです(つまりボツリヌス療法はリハビリを補助する治療という位置づけです)。治療によって次のような効果が期待できます。
- 手足の筋肉がやわらかくなり、動かしやすくなることで、日常生活動作(ADL)が行いやすくなります。
- リハビリテーションが行いやすくなります。
- 関節が固まって動きにくくなったり、変形するのを防ぎます。
- 痙縮による痛みを緩和する効果が期待できます。
- 介護の負担が軽くなります。
ボツリヌス療法は繰り返し行うことができます。効果が切れてきたら、また治療を行います。
当院では治療の説明時にパンフレットをご覧いただきながら説明します。